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回想
回想

普段の自分は、会社勤めで一日の大半を音楽とは関係のない時間を過ごしている。
音楽にあてられる時間は限られている。
音楽に沢山触れていたいが現実は、そう簡単ではない。
限られた少ない時間の中で納得のいくモノを作る事が、今の自分に出来る精一杯。

自分の一日、一ヶ月、一年の音楽製作の時間割を考えてみる。
音楽にかけられる時間は、本当に少なかった。

音楽にかけられる時間を目の当たりにして自分が考えた事は、「須田伸一と東京と今」の三つの言葉だった。

「須田伸一と東京と今」

今の自分にしか出来ないモノって何かあるのだろうか?

自分の今、現在、置かれている状況だからできるものってなんだろう?

東京に住んでいて、普段は会社勤め、主に休日に音楽を作る。
大切な家族がいて、趣味は山や川に遊びに行く事。

三つの言葉ついては,twothのファーストアルバムを出してぐらいから、自問自答を繰り返していた。自問自答の原因は、twothの作風だったり、思い描くtwothのライブを実現できない事も含まれていた。twothを制作するにあたり、今という言葉が頭に重くのしかかっていたからだった。

この時の自分は、最低限の時間の中で表現する事が重要な課題だった。

自問自答の期間には,バンドをしていたり、友人と共作に励んでいたり、もやもやから逃げたり、立ち向かったりしていた。

答えなんかでなかった。

この時期にしていた現実逃避の遊びと言えば、フィールドレコーディングだった。バンドの練習用にと 2006年6月に、デジタルのコンパクトレコーダーを買った。その気軽さに惹かれて近所やいろんな所をフィールドレコーディングをして楽しんだ。そんな流れもありバイノーラルマイクを買ったりといろいろなコンパクトマイクに凝るようになる。当時は録り貯めていたものを作品に使うわけでもなく、ただ近所の音を切り取って遊んでいた。

2007年の自分は、サンプリングにも飽きて、楽器を演奏する事に重きを置いていた。でもやっぱりサンプリングの背景にある考え方はすごく好きだから、なにか切れ取れるものはないかと探していた時期でもあった。

今の自分にしか出来ないものって何かあるのだろうか。

この言葉が夜、布団に入り、天井を見上げると、どこからともなく聞こえた。
自己啓発の本みたいな話だが、この時期は本当に悩んでいた。
バンドでも悩み,作品にも悩み,仕事にも悩み、、、かなり煮詰まっていた。
考えては悩み、考えては悩みの繰り返しが続く日々だった。

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悩んだ時は,悩んでいる事や考えている事を紙に書くようにしている。
今、自分の考えている事を絵にしたり、図にしたり,言葉にしたりすると、少しだけ頭の中がすっきりする事があるから。

2007年の2月の終わりに、いつものように考えている事を紙にまとめようとした。

「今の自分は、東京に住み、平日は会社で働いている、、、」

「じゃあ東京の今だからできる事って何だろう」

「ただ東京の町中で演奏してもつまらないしな、、、」

ここまではいつもの繰り返し。

「実際に体にコンパクトマイクを色々付けて歩いてもおもしろくないしな〜、、、」

「試してはみたが、フィールドレコーディングと何も変わらない、、、」

東京と自分をうまく録る様に,いろんなマイクを探しては試しの繰り返しの日々

「フィールドレコーディングで何かするというのに捕われすぎてんだよな,,,」

「捕われない,,,」

紙になぐり書きする

「じゃあ、東京とライブをする?」

「東京で何かをするのではなくて」

「そうか、東京と何かをすればいいのか」

「共演者は東京,自分は演奏者でもあり、指揮者でもある!」

「気分は,KING TUBBYだなっ、東京の音自在に操る」
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東京の雑多な音とセッション
手に持てる小さな楽器と移動型スタジオを持って外に出る
ライブは時間は問わず東京中で行なわれる

東京と自分が共鳴するように耳を澄ます
気分は自由奔放な楽団を率いる指揮者

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それがこの日に書いた,なぐり書きの自分への指示。

東京とセッションする

この言葉の組み合わせから全てが始まった。

音源は、須田伸一の耳になって音が聞こえるように、大半がバイノーラルマイクを使用した。曲によっては、小型のコンデンサーマイク等を使ったりもした。東京とリアルタイムにセッションできるように、鞄一つにまとまる、移動型スタジオを考えた。鞄の中にはバイノーラルマイク、エフェクター、小さな楽器などなど、機材の配線等をうまく組み合わせた移動型スタジオだ。これには現在の機材のコンパクトさが大いに役立った。録音を始めてから、機材を増やしたり、減らしたりを繰り返した。職務質問を何度もされないように、うまくカモフラージュ出来るように、試行錯誤を重た。

かなり馬鹿馬鹿しいコンセプトだがやってみると面白い。考え方によっては、何万人の観客の前で演奏、何万人の人間や動物、昆虫、車、電車、雨、風などとの共演、またはひっそりと東京を盗聴でもしている気分にもなる。自分が町を歩く事によって,音が切り取られ、リアルタイムに音が加工される。東京の音は,想像以上に変化する。録音をしていると自分までもが音の一部になり、不思議な錯覚に陥る。その感覚は東京を舞台にした、ゲームや映画の中みたいだ。予定調和なんてモノはなくて、リアルに動いている東京を五感や地図を頼りに、ゲームを進行する。今まで聞こえていなかった音が、自分の神経を刺激する。

「東京とセッションする」という大きなキーワードが出てから、ただひたすら東京と録音を続けた。

そして録音物や自分の録音メモを見聞きして、そこにある自分にも分からない音を考え続けた。

一つの答えは、2009年12月に出た。

「Route」 という言葉が、一つの答えだと確信した。

Route Music
作者の歩く道筋によってリアルタイムに作曲する、一度限りのゲームのような音楽。

この言葉が出た時に本当にすっきりした。

録音期間
2007.02.18〜2010.01.11

総合録音時間
約215時間  
収録された音源は、上記の録音より抜粋しています。

録音した場所
渋谷、新宿、明大前、清澄白河、菊川、森下、両国、浅草、上野、秋葉原、高井戸、富士見ヶ丘、久我山、芦花公園、吉祥寺、千歳烏山、仙川、多摩川、ベランダ

使用した交通機関
京王線、井の頭線、都営新宿線、都営大江戸線、半蔵門線、山手線、中央線、総武線、自転車

使用機材
バイノーラルマイク×2、コンパクトコンデンサーマイク、ヘッドフォン、コンパクトミキサー、コンパクトレコーダー、ケーブル各種、マイクプリアンプ、コンパクトエフェクター(tremolo×2、delay、reverb、loop machine、kaos pad)

使用楽器
stylophone、casio vl-1、gameboy、iphone、テレコ、チューナー、口琴、マドラー、自分の体、傘、バチ、いろんなおもちゃと小さなパーカッション

使用した電池 
9V乾電池 125個 
単三電池  105本   (後半からeneloopを使用)

職務質問 2回

上記の場所や交通手段を使って録音をした。音源にセレクトされたのは、ほとんど最近のモノばかりだった。以外にもこんな録音方法にも技術があるんだなと再認識した。録音を聞いていると自分と東京の関わり方が見えてくる。曲の構成上、普段行かない所に,少し足を伸ばしたりもしたが大半は、狭い行動範囲の中で日時やルートを変えて録音した。

作曲は、自分の足取り(ルート)によって決まるので、体力勝負でもあった。エフェクターや小さな楽器や録音機材とはいえ,一度に持てるもの、操作できる事は限られる。録音中、主に視覚や聴覚を頼りにエフェクターや小さな楽器など身体的な要素も含めながら曲を構成する。東京との共演で重要になってくるのは、時間帯や場所。知らない町を歩いている時が一番ゲーム性が高くなる。地理が分からない中での録音は、本当に面白い。偶然性に多くを頼る形になるので失敗も多いが面白い音に出会えたときの興奮は今でも忘れられない。

須田伸一 2010.02.28

# by border_records | 2010-02-28 08:08


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